コラム 「アフターコロナの商店街」名取雅彦 第3回
2020年7月22日
新しい生活様式が浸透した状態に適合したアフターコロナの商店街では、コミュニティ機能の役割がいっそう高まるはずです。そしてこうした機能を、効果的に整備し、活用するためには、関係者のコミュニケーションの場づくりがカギを握ると思われます。
これからの商店街のあり方については、今年6月に経済産業省が設置した「地域の持続可能な発展に向けた政策の在り方研究会」(座長:森田朗津田塾大学教授)が、「商店が集まる街」から「生活を支える街」、という象徴的なサブタイトルが付けられた中間とりまとめを出しています。
中間とりまとめでは、「地方圏を中心として、人口減少に伴う需要の縮小に加え、郊外の大型店との競合、電子商取引(バーチャル)の普及等により、多くの商店街はかつてのにぎわいを失いつつある」という現状認識のもと、商店街のポテンシャルについて下記のような記載があります。
一方、経済産業省が推進してきた、これまでの商店街・中心市街地政策については、「一言でいえば、買物の場を提供する商店街の商業機能を回復させ、または、高めることを支援する施策が中心であった」とし、地域の住民やコミュニティにとっての商店街の位置づけが「買物の場」から「多様な世代が共に暮らし、働き、交流する場」へと変化する中、そうした変化に対応した施策アプローチが、必ずしも十分でなかったと考えられる、との評価を下しています。
その上で、これからの行政の支援策について、「地域コミュニティの維持のために非超な、地域の住民やコミュニティのニーズに応える役割・機能を高めること」を目的とする方向へと転換すべきであるとし、今後のコミュニティにおける商店街の対応の方向性として、商店街の置かれた状況に合わせて、「①(商業機能)単独型」「②(地域コミュニティ支援機能との)複合型」「③転換型」という3つの類型を示しています。
商店街においてコミュニティ機能を強化すべきという考え方は従前からあり、言うまでもないことのような気もします。ただ、ここに来て国が本腰を入れて政策転換に取組もうとしていることは注目したいと思います。
〈 地域類型別の課題と方向性 〉
出所)「地域の持続可能な発展に向けた政策の在り方研究会」中間とりまとめ(令和2年6月23日)
全国各地の商店街や中心市街地の取組をみると、空き店舗などを利用し、託児所や高齢者支援施設、図書室などのコミュニティ機能を導入する取組は多数の先行例が存在しています。ただし訪問してみると、あまり利用されていない施設もあるようです。単に施設を整備するのではなく、実際に利用されるようにするためには、住民や来街者のニーズに応えるソフトを含む機能整備や運営がポイントといえます。
その点で、最近、印象に残ったのは山口県東南部に位置する人口約10万人の拠点都市、周南市で整備運営されている「周南市徳山駅前賑わい交流施設」の取組です。この施設は、2018年2に周南市がカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と提携し、周南市立徳山駅前図書館を中心に、蔦屋書店やスターバックスコーヒー、フタバフルーツパーラーなどが入る複合施設です。“未来の私に出会う場所”をコンセプトに掲げる図書館は多数の市民の交流の場となっており、地方都市における立地ながら、利用者数は全国有数の年間約200万人に達しています。
注目したいのはその整備運営形態です。CCCとは指定管理を行う前から議論を重ねたそうですが、中心市街地活性化協議会のもと、まちづくり会社「㈱まちあい徳山」が事務局を担う「周南駅まち連携会議」が定期的に開催され、そこに、CCCの他に、市役所、商工会議所、商店街、JR西日本を含む関係者が一堂に会して施設利用に関するイベント開催等のあり方を議論しています。
この施設を運営するCCCの責任者によれば、会議で議論を重ねることによって関係者の意思疎通が図られており、CCCが運営する全国の施設の中でも、特に地域と一体となった効果的なイベント開催が可能となっているとのこと。施設を見学し、関係者からお話をお伺いして、ハードとしての施設整備よりも、使い方に関わる話し合いの場が重要な役割を果たしていることを実感いたしました。
周南市では交流施設に隣接する駅周辺商店街の再開発も計画されており、これを機に再生の進むことが期待されています。
〈 周南市立駅前図書館 〉
〈 小学生市民団体の展示(図書館に併設されている交流施設内で)〉
密閉・密集・密接という三密を避けるコロナ感染予防対策のもと、商店街や中心市街地は、コミュニティの中心に位置するリアル空間として期待されている機能を発揮できないでいる状況が続いています。
しかし、こうした状況もいずれ終息し、再び本来のポテンシャルを活かせる時期が到来するはずです。そしてその際は、新しい生活様式の定着によって、在宅のテレワークや、サテライト型の勤務形態が定着することによって、郊外部でも昼間人口が増えることが期待されます。
昼間人口が増えれば、リアルな地域の拠点としての商店街や中心市街地に対するニーズや利用可能性も広がるはずです。商業機能に加えて、働く場としてのオフィス機能、都市型の居住機能、今回紹介したコミュニティ機能等、これまでより多様な機能を備えた集積拠点が求められるのではないかと思います。
冒頭に紹介した経済産業省研究会の中間とりまとめでは、地域の強みを活かす自己変革の取組を支援する方向が、今後の検討課題とされています。望ましい地域の実現に向けて、周南市における取組のように、行政だけでなく、利用者や事業者等、関係者が参画する場を持つことによって、自分たちのライフスタイルを豊かにする機能や空間を備えた商店街や中心市街地の形成が進むことに期待したいと思います。
名取雅彦
株式会社マインズ・アイ代表取締役/中小企業診断士、技術士(建設:都市・地域計画)/ 1980年(株)野村総合研究所を経て2016年から現職。経済産業省街元気プロジェクト、磐梯町地方創生戦略等、全国各地における多数のまちづくり分野のプロジェクト経験を有する。/東京都中小企業診断士協会まちづくり研究会会長/主な論文・著書に、「女性の視点に立ったまちづくり」(2019年)、「稼ぐ力と地域力」(2016年)、「活性化は地域の構想力次第」(2014年)、「電子自治体経営イノベーション」(2002年)など。
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