コラム 「アフターコロナの商店街」名取雅彦 第2回

2020年6月24日


前号で述べたように、新型コロナをきっかけとしてテレワークなどの新しい生活様式が広がる中で、日常的な活動の場としての郊外部や地方都市のポテンシャルが高まると考えられます。今回は、こうした中で商店街の集客力を高めるベースとなるオフィス立地について考えてみたいと思います。


商店街におけるオフィス立地のことを考える時に、まず思い浮かぶのは宮崎県日南市の油津商店街です。日南市は、真っ赤なJR駅舎がある広島カープのキャンプ地として有名な人口や5万人ほどの都市です。宮崎市から南に約30km、車で約1時間、JRでは1時間10分ほどの位置にあり、中心市街地の油津商店街も至便とはいいがたい立地条件に立地しています。


ところが、この商店街が2013年から大きく変貌を遂げました。きっかけは、4年間で20店舗立地というミッションのもと、商店街活性化の担い手を月90万円の委託費で広く公募したことです。333人の応募者の中からテナントサポートマネージャーに選ばれたのは木藤亮太氏。精力的に活動した結果、4年後の立地店舗数28件と見事に目標数値をクリアします。


実はこの28件には、地方都市では立地が難しいと考えられていたIT系企業のオフィス8件や保育所も含まれています。同時期にマーケティング専門官として外部から採用された田鹿氏とも協力した結果、IT企業のオフィスを商店街へ誘致することに成功したのです。


最初に立地したIT企業は東京に本社を構える株式会社ポート。2016年4月に停滞状態にあった油津商店街にメディアの運営部門を担うオフィスを構えました。また、インターネット広告の配信事業を展開する株式会社Omnibusは運用型広告を担うオペレーションセンターを開設しました。各社の現地責任者に日南での業務をお伺いしたところ、業務の受注や顧客との交渉を東京で行えば、コンテンツの作成等については、日南でやっても問題はなく、むしろ人材を採用しやすいメリットがあったとのことでした。


就業しているのは主として日南市に居を構える若い主婦たちです。こうした主婦が働きやすい環境を整備するために、油津商店街では保育所が立地し、日南市の子育て支援センター「ことこと」も整備されています。商店街にお母さん方が安心して働けるような環境を作り出したのです。


従来の概念を変える商オフィス誘致による就業の場としての機能も備えた地域再生。この状況を木藤さんは、元々の「商店街の再生」をやったわけではないと表現します。IT企業が立地し、新たな都市機能が立地する中で、単にモノを売る場でとしてではなく、新しいコミュニティ形成の場として変貌を遂げた商店街に、これからめざすべき商店街のモデルをみることができるように思います。



油津商店街最初のIT企業PORT


PORT


日南市油津商店街

日南市のような中心市街地にオフィス誘致を進める動きの他に、最近では商店街の空き店舗のリノベーションとあわせて、「サードプレイスオフィス」とも呼ばれる、シェアオフィスやコワーキングスペースを整備する動きがみられます。


例えば、福井市では、福井新聞社がまちづくりの実践に取り組む企画から、地区50年のアパレルショップがリノベーションされることとなり、2015年に“sankaku”というユニークなコワーキングスペースが誕生しました。


また、東北芸工大の学生も巻き込んでエリアリノベーションの動きが進む山形市では、2016年に山形市七日町のシネマ通りにある築40年4階建ての雑居ビルが改装され、「とんがりビル」と呼ばれるクリエイティブ活動の拠点が生まれました。このビルには、さまざまなジャンルのショップ、飲食店や、展示スペースとともに、シェアオフィスを含むオフィススペースが提供されています。


この他にも、最近では仙台市、掛川市など、各地で商店街の空き店舗を活用してシェアオフィスやコワーキングスペースを整備する取組が輩出しています。



sankakuコワーキングスペース

https://sankaku.business.site/


山形市とんがりビル

https://www.tongari-bldg.com/tongari


とんがりビルのシェオフィススペース

https://www.reallocal.jp/24907

 2016年オープン当初

商店街の空き店舗におけるオフィス立地については、中小企業庁が2017年度に実施した空き店舗実態調査に興味深いデータがあります。空店舗の解体・撤去後の利用状況が好影響を与える用途として、新しい商店、商店街の共同施設という回答が約6割を占めていますが、オフィス立地についても同様に約60%の評価が与えられているのです。


Amazon、楽天などのネット取引が広まる中で、小売業界における実店舗の役割は大きく変わろうとしており、リアルな店舗の誘致はいっそう難しくなると考えられます。しかしながら、新しい生活様式としてテレワーク化が進展すれば、郊外部、地方都市におけるオフィスニーズが高まる可能性が高いと思います。不動産協会が2019年4月に公表した「オフィスの未来に関する調査」によれば、今後、本社の集約とテレワークのハイブリッドが進むとしており、新型コロナウィルスの感染拡大はこうしたトレンドを加速したと考えられます。実際、仲介会社によればオフィススペースの使用方法などを見直し、都心部オフィスの賃料コストを削減しようとする動きが増えているようです。


こうしたトレンドの中で、郊外部や地方都市の商店街振興に当たっては、職住近接がキーワードになりそうです。整備が進むコミュニティ機能とあわせて、働く場を創出し昼間人口を増やす基盤としてのオフィス立地に着目すべきだと思います。



解体・撤去後の利用が商店街に与えた影響

出所)商店街空き店舗実態調査報告書(2017年3月)


名取雅彦

株式会社マインズ・アイ代表取締役/中小企業診断士、技術士(建設:都市・地域計画)/ 1980年(株)野村総合研究所を経て2016年から現職。経済産業省街元気プロジェクト、磐梯町地方創生戦略等、全国各地における多数のまちづくり分野のプロジェクト経験を有する。/東京都中小企業診断士協会まちづくり研究会会長/主な論文・著書に、「女性の視点に立ったまちづくり」(2019年)、「稼ぐ力と地域力」(2016年)、「活性化は地域の構想力次第」(2014年)、「電子自治体経営イノベーション」(2002年)など。