コラム 「商店街と暮らしとマルシェ」臼井彩子 第2回


第2回 商店街とマルシェ

2020年6月18日


商店街といえば、賑わいづくりのためのイベントが盛んだ。お祭りやイルミネーションなど地域のニーズに合わせて様々な企画が行われている。個々のお店の販売促進としてはもちろん、その街に住む人の楽しみとしても定着している。

大勢の人が集まるイベントの今後の開催について、議論を進めている商店街も多いだろう。イベントの自粛期間が続いたことで、私自身も6年間携わってきたイベントの今後を考えているが、改めてリアルな場によって生まれていたものが、いかに大切だったか気付かされる。


2014年から携わっている「はつこひ市場」は、地域のお店をはじめ、横浜の野菜や、加工品、お菓子やパン、コーヒーなどを扱うお店が市内外から参加する地域密着型のローカルマルシェとして開催されている。横浜市中区の初音町・黄金町・日ノ出町を合わせた地域にできた「初黄日(はつこひ)商店会」が主催となり、立ち上げには横浜市立大学の学生も関わり、今も運営に参加している。


アートの街づくりに取り組む地域の中で、食の楽しみを提供するイベントとして企画した。

地域に密着したイベントでありながらも、「マルシェ」という形を取ることで、地域外からの出店者も迎い入れ、商店会の中だけでは揃わない産地直送の野菜やこだわりの食材が集まるマーケットとして開催している。

写真:はつこひ市場の様子
写真:横浜産の野菜などが並ぶ


さらに2015年からは、春と秋の回を「黄金町パンとコーヒーマルシェ」としてテーマ開催している。近隣にパン屋が少ないという声や、当初からはつこひ市場に出店していたパンのお店と話をする中で企画が持ち上がった。一度でも街に足を運んでもらい、関心を持ってもらいたい、という想いで試行錯誤をしながら開催を継続し、昨年は出店者数も2日間で60店舗以上、来場者数も2万人を超えるなど、人気のイベントとなっている。


写真:黄金町パンとコーヒーマルシェでは入場待ちの列ができるほど
写真:市内外から様々なお店が参加する


当初は地元在住者に限られていた来場者も、次第に周辺エリアや沿線に住む人が増え、最近では県外など遠方から訪れる人もいる。昨年は特にベビーカーをひいた子供連れの姿が目立つなど、休日に家族で遊びに行きたいイベントとして認知されてきている。



マルシェ会場では、おしゃれなお店が並びつつも、入り口には地元の鶏肉専門店の店主の顔があり、鰹節専門店の店主が気さくに声をかけてくれる。会場では出店者同士の交流も生まれ、地元商店の食材を使った新商品を開発し、出品している出店者もいる。また、出店者からの紹介により、新規に参加するお店も多い。

外部の出店者に声をかける場合には、来場者のニーズに合うか、出店者にとってメリットがあるか、ということはもちろん、「地域への興味や関心があるか」という点を大切にしている。街との縁が、イベントへの協力や継続的な参加にもつながるからだ。

最近では、周辺のエリアに新しく工房を始めたという来場者から「次回のマルシェに出店したい」と声をかけてもらう機会も増えた。新しい出店者とは、お互いの集客に繋がるような良い関係を築けるよう努力している。


運営に関わる横浜市立大学の学生は、大学卒業後もこの街やイベントへの関心を持ち続けてくれる人が多く、昨年秋の開催では何人もの卒業生が、スタッフとして参加してくれた。中には他県から遥々来てくれた人もいたほどだ。

イベントを実施する度に、人との出会いが生まれ、コミュニティの輪が広がっていくことを実感する。来場者、出店者、運営側と、それぞれの関わり方を通じて、街のファンが少しずつ増えている。

継続する中で、課題となっていることもある。高齢化による廃業により、地元からの出店者が減りつつある。また単発のイベントから日常的な賑わいに繋ぐための導線づくりはまだ十分ではない。


こうした課題もあるが、イベントを通じて出会った縁が、地域の日常に繋がった例もある。

隣駅のエリアに開業し昨年からマルシェに出店しているグルテンフリーの米粉パンのお店を、地域内の飲食店に紹介することになり、そのパンを生かした新しいランチメニューが提供されるようになった。

このような、イベントを通じて出会った縁や、お店同士の交流が、地域の日常的な魅力に繋がるような仕掛けを、今後は増やしていきたい。

写真:近隣エリアに工房を構えるAnge pastryの米粉パン
写真:Ange pastryのパンを使ったTinysのランチ



こうしたイベントは、たった1日の開催であっても、そのために準備を重ねてきた期間があり、熱い気持ちで取り組んでいる人たちがいるからこそ開催できるものだ。それを毎年のように継続させるのは、ものすごくエネルギーのいる難しい事だ。

イベントの空白期間が長引いてしまうと、今までイベントを通じて築いてきた人との関わりや出会いが途切れてしまうのではないか、という不安も感じる。

だからこそ、今は発信を続け、再開の時まで繋げていくことが大事だ。そして、また多くの人で賑わう街の姿を作れるよう、準備をしていきたい。




臼井彩子

食や地域のつながりをテーマにイベントを開催しているプロジェクト「パンとコーヒーマルシェ」主宰。地域の人、生産者、地域を担う商店などとの繋がりの中で、それぞれの魅力を発信していくことを目的として活動。学生時代より黄金町の取り組みに関わり、初黄日商店会のローカルマルシェ「はつこひ市場」をスタート。「黄金町パンとコーヒーマルシェ」などイベントの企画運営を担当している。