コラム 「アフターコロナの商店街」名取雅彦 第1回

2020年5月29日


まちなかの商店街を取り巻く環境が変化しています。これまで衰退を続けてきた商店街が、テレワークによる在宅勤務が広がる中で転機を迎えているのです。こうした動きを踏まえ、アフターコロナの社会における商店街の新たな役割について考えてみました。

「商店街離れ」という言葉がいわれるようになってから、既に半世紀以上が経っています。私が仕事で地域計画に関わるようになったのは1980年のことですが、もうその頃には、商店街活性化は代表的な地域問題のひとつになっていました。

ただ、問題が深刻になったのは1990年代のことだと思います。日米構造問題協議の中で不当な規制とやり玉にあげられた大店法が撤廃されたことで、大規模な駐車場を備えた大型店の郊外立地が加速したからです。大型店の郊外立地に伴い、まちなかの集客力が下がった結果、商店街の問題は、大型店との客の奪い合いから、客離れへと変わったのです。


こうした中、1998年に中心市街地活性化法が成立し、全国各地で活性化が取組まれたものの、際立った成果は上がりませんでした。むしろ人口減少が進み、高齢化に伴う商店の後継者難が深刻になるなかで、空き店舗が発生し、空き店舗が集客力の停滞をまねくという、停滞サイクルがまん延しています。

全国の商店街組織を対象に実施された2018年の商店街実態調査によれば、最近3年間の来街者が「減った」という商店街が55.1%を占め、「増えた」とする商店街は11.8%に留まっています。商店街の景況はさらに深刻で「衰退している」「衰退の恐れがある」という商店街が7割近くを占め、「繁栄している」「繁栄の兆しがある」とする商店街は6.1%にすぎません。東京大都市圏の一画に位置する神奈川県や横浜の商店街は、全国平均と比べれば、多少はましな状況ですが、とても活性化しているという状況ではありませんでした。


ところが、コロナ禍のもと、身近な商店街やスーパーに人が溢れるようになりました。品川の戸越銀座や、郊外部の商店街では、訪れる人が増えていることが示されたとの報道や、ビッグデータの解析もありました。

ずっと客離れが喧伝されていた地域の商店街がにぎわうようになったのは、外出自粛に向けてテレワークによる在宅勤務が奨励され、ベッドタウンだった居住地で昼間も過ごす人が増えたからです。昼間も過ごさなければならないことで、これまでより食品等を買う必要が生じ、またどこかに出かけたいという心理もあって、最寄りの商店街やスーパーに人が溢れたのだと思います。


もちろん、新たな三密が感染の温床になりかねないと、ステイホーム週間には、外出自粛、営業自粛が要請されたため、まちなかの商店街がにぎわったのは一時的なものでした。しかし、今でも郊外部の食品スーパーや商店街では、開店時や夕刻、まとめ買いをしている顧客がけっこういて、アフターコロナの生活様式によっては、地域の商店街の在り方が変わる可能性のあることを感じさせます。

特に、横浜の旧宅地は、東京都心のベッドタウンとしての性格も強いだけに、新しい生活様式としてテレワークが定着すれば、影響が大きいはずです。2015年の国勢調査によれば、横浜市の昼夜間比率は91.7%であり、流出超過人口は約30万人にも達しています。区別にみると、中区、西区、神奈川区は流入超過ですが、そのほかの区はだいたい1万人~3万人の流出超過という状況です。テレワークによる在宅勤務が定着した場合、昼間人口がかなり増えても不思議ではないのです。


これからの商店街に期待される役割としてはどのようなものがあるでしょうか。


コロナ対策が続く中で、テレワークやWEB会議など、ネット活用の有効性に気づいた人が一挙に増えたと思います。断言はできませんが、結果的に、コミュニティを拠点とするライフスタイルが徐々に広がるのではないかと思っています。

既に昼間人口の増加に対する飲食料品・惣菜等の供給機能に対するニーズは顕在化しています。コロナ禍のもと、食へのこだわりが強まるというおまけもついているようです。さらに、今後、対コロナワクチン等が開発され、三密の制約が解消されれば、潜在的に存在するカフェ・飲食店、図書スペース・保育所等のコミュニティ機能や、ワークスペース・シェアオフィス等に対するニーズが顕在化すると考えられます。もともと期待されている交流の拠点としてのまちなかの役割が高まるのではないでしょうか。


鍵を握る人々の生活スタイルの変化とコロナ対策の進展状況次第とはいえますが、アフターコロナ後の方向感は早い段階で持っておくにこしたことはありません。当面の対策が重要なことは言をまちませんが、アフターコロナに機能する商店街構築に向けて、関係者がアイディアを出し合い、ビジョンを共有することや、地域との関係性の強化に向けた仕組みづくり、ネット活用した交流機会の創出等、できることから手を打っていくことも必要だと思います。


名取雅彦

株式会社マインズ・アイ代表取締役/中小企業診断士、技術士(建設:都市・地域計画)/ 1980年(株)野村総合研究所を経て2016年から現職。経済産業省街元気プロジェクト、磐梯町地方創生戦略等、全国各地における多数のまちづくり分野のプロジェクト経験を有する。/東京都中小企業診断士協会まちづくり研究会会長/主な論文・著書に、「女性の視点に立ったまちづくり」(2019年)、「稼ぐ力と地域力」(2016年)、「活性化は地域の構想力次第」(2014年)、「電子自治体経営イノベーション」(2002年)など。