コラム 「商店街と暮らしとマルシェ」臼井彩子 第1回
第1回 商店街というコミュニティの力
2020年5月27日
暮らしのそばに商店があり、歴史があり、顔の見える繋がりがある。お店のご主人と話せば、温かさと同時に、そこに商売を守り続けてきた歴史、地域への強い想いと熱量を感じる。時代を生きてきた商店街の空気の中にあるということは、新しくできるお店にとっても、ひとつの魅力になる。
そんな下町の人情が生き残る「商店街」というコミュニティ。ニュータウンとして造られた街で育った私にとって、横浜の商店街の風景はいつでも魅力的に映る。
まちの魅力、商店の魅力、人の魅力に出会う中で、横浜の地域に根ざした形でのイベントを行うようになった。2014年からは、京浜急行線の高架が走る黄金町駅から日ノ出町駅の間を中心としたエリアにある「初黄日商店会」と共に、ローカルなマルシェを開催している。
横浜の中でも特殊なエリアではあるが、問屋街としての歴史があり、今も鰹節や駄菓子、調理道具、包装梱包資材などを扱う卸売の店舗が立ち並び、野毛に近い日ノ出町駅周辺には長年続く飲食店も多い。マルシェには横浜市立大学の学生が長年運営に参加しており、地域に暮らす人だけでなく、様々な関わり方で地域に愛着を持ち、人の繋がりが生まれる街になっている。
写真:初黄日商店会主催のローカルマルシェ「はつこひ市場」の様子
横浜という都市部にありながら、ローカルな人の温かさ、街の歴史を実感できるのが、地域の商店街という場所の魅力だ。
昨今では、大型ショッピングセンターの出現や、インターネット通販の普及により、地域の商店街は空き店舗が目立つようになってきている。商店のオーナーが高齢化し、次の世代が見つからないという課題もある。
さらに、今回の新型コロナウイルス感染拡大が地域経済にも影響を及ぼし、今後どの程度この状況が続くのか、見えない不安が漂っている。特に飲食店は大きな打撃を受けており、私の知る範囲でも、5月までの間に閉店を余儀なくされたお店もある。商売を持続させるのがいかに難しい事であるか考えさせられる。
一方で、すでに始まっている「ウィズコロナ」の時代は、地域経済にとってはマイナス要素ばかりではない。人々はよりローカルを軸として生活にシフトし始めている。
自粛中の生活範囲は、居住エリア周辺に限られる。今回の自粛期間中に、今まで歩いた事のない身近な場所を散歩したという人も多いだろう。生活用品の買い物のために、一部の商店街に人が溢れているという報道も流れていた。実際に緊急事態宣言後、神奈川県の人口流動分析でモニタリング地点となっていた洪福寺松原商店街周辺では、宣言前と比較して人口流動が増加傾向を示していた。
ウィズコロナの時代は残念ながらもうしばらくの間は続くだろう。感染対策への十分な配慮など、解決しなければならない課題はあるが、一方でこれは地域の商店街にとってはチャンスでもある。
暮らしのすぐそばで、生活に必要な物が揃い、人と会い、楽しい時間が過ごせる。そんな「商店街のある暮らし」の豊かさに、改めて気づくタイミングが来ているのではないだろうか。
今回の自粛要請により、大きな打撃を受けている飲食店の多くは、テイクアウト販売に生き残るための活路を見出しているが、そのためには遠方からの集客ではなく、地域コミュニティの中での消費に注力することが重要になる。
この状況に、非常に早い動きを見せている地域もある。
東戸塚商店会では、4月13日から地域限定のデリバリーサービス「東戸塚EATS」が立ち上がっている。WEBサイトより注文ができ、休業などで仕事が減ってしまったアルバイトスタッフなどが配達員となり飲食店の料理を届けている。
石川町活性化委員会が5月からスタートしたデリバリーサービス「石川町eats」は、商店街の枠を超えて街全体の取り組みとして立ち上がった。お弁当だけでなく、パンやスイーツなども注文でき、複数のお店からフードフェスのように選んで自宅で楽しむことが出来る。
参照:東戸塚EATS https://ht-eats.site
参照:石川町eats https://ctm-ishikawacho.stores.jp
チェーン店の味ではなく、地元のお店が作るこだわりの味を自宅で楽しめることは、外出を控えたい人にとって魅力あるサービスだ。
こうした取り組みによって、改めてその地域の情報が発信され、注目される事で、将来的なお店の宣伝にも繋がる。今後はさらに、地域内だけではなく、地域の外からの支援を得られるような取り組みも増えて行くだろう。
こういった取り組みを動かす地域密着型のプレーヤーが、地域にいるかどうかがポイントでもあるが、商店街というコミュニティがあるからこそ、その中で生まれる支援プロジェクトがあり、地域の中で助け合うことが出来る。横浜市経済局による商店街支援事業も発表されている。商店街というコミュニティに属している強みは、これからさらに発揮されるだろう。
この機会に、横浜のそれぞれの商店街の個性、面白さ、今までオンライン上に見えていなかった魅力が発信され、商店街に対して新たに興味を持つ人が増え、横浜全体の中で応援できるようになることを期待したい。
臼井彩子
食や地域のつながりをテーマにイベントを開催しているプロジェクト「パンとコーヒーマルシェ」主宰。地域の人、生産者、地域を担う商店などとの繋がりの中で、それぞれの魅力を発信していくことを目的として活動。学生時代より黄金町の取り組みに関わり、初黄日商店会のローカルマルシェ「はつこひ市場」をスタート。「黄金町パンとコーヒーマルシェ」などイベントの企画運営を担当している。
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